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【仮説小説】AKB48 戸賀崎智信奮戦記



編集_21


1 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 14:47:18.92 ID:5nGd8v/80
以前ここで【仮説小説】なるものをうpした時に
色々な人から感想やアドバイスを頂きました。
それから、それらを参考に書こうとしましたが思うように行かず
それならと、ショートショートならと思い何編か書いてみました。

スレタイからも分かる通り「戸賀崎氏」から見たメンバーとのふれあいを
回想録形式で書きました。暇つぶしにでも読んでもらえればいいです。

尚、章題の曲と内容は違いますので…。


4 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 14:50:18.68 ID:5nGd8v/80
人に印象付ける事柄のひとつにトレードマークがある。
例えば、大きなリボンを見れば高橋みなみを思い出すのも、
アヒル口を思い浮かべれば板野友美の顔が出てきたりするのも
それぞれそれがトレードマークになっているからである。

AKB48内で大きなお腹がトレードマークと言えば誰もがすぐに3人の顔を思い浮かべるだろう。
一人目はAKBグループの大重鎮の「秋元康」、二人目は衣装デザイン担当の「茅野しのぶ」、
最後はメンバーに最も近い存在の僕「戸賀崎智信」であろう。
ちなみにファンのあいだでは「tgsk」で知られている。

今日も僕は階段を登りながら息を切らしていた。
少しはダイエットになるかもとなるべく階段を使うように心がけている。
踊場で手摺に手を掛け息を整えながら、でっぷりと出たお腹をさすると
あの時の情景が思い浮かぶ。


5 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 14:52:47.08 ID:5nGd8v/80
「週末Not yet」

朝、劇場の鍵を開けるのは大抵が支配人の僕の仕事だった。
ポケットから鍵の束を出し、扉を開けようとしたら背後から「おはようございます」声を掛けられた。
居るだろうと分かっていても、やっぱり驚いてしまう。
振り向くと少女が一人そこに立っている。
「おぉ、おはよう・・」
僕は、驚いたのを悟られぬ様に冷静な振りをした。
「相変わらず早いなぁ」
「はい。やらなければならないのがぎょうさんありますから」
少女は微笑みながら嬉しそうに答えた。


6 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 14:55:20.40 ID:5nGd8v/80
彼女の名前は横山由依。
現在ではAKB48の選抜メンバーとして頑張っている。
しかし、当時はまだ候補生の一人だ。
初めて会ったのは(実際には2度のオーディション時に会っているが)、
AKB48劇場の入り口だった。
いきなり「おはようございます」と声を掛けられ、持っていた鍵の束を落とすほど驚いた。
「おはよう」とあいさつを返しながら、誰だったっけと少女の顔を見ながら頭の中で想い起こしていると
「私、この前のオーディションで受かった、候補生の横山由依と言います」
と自己紹介した。
「よくビル内へ入れたな」と訊くと
「送られてきたAKBの証明書を裏口の警備員さんに見せたら入れてくれました」
とにっこり笑う。それから二人で真っ暗な劇場へ入った。
僕は先ずセキュリティーシステムにICカードを当て解除をすると、次に電源板のブレーカーを上げる。
その間彼女は劇場の入り口付近に荷物を持ったまま立っていた。ロッカールームに案内して荷物を置いてこさせると、あとはちょこんと客席に座って待っていた。
「あと1時間もするとみんな来るから、もう少し待ってて」
と声を掛けると「分かりました」と答えてからおもむろに
「あのぅ、掃除道具はどこにあるんでしょうか?」と尋ねてきた。
「えっ、掃除道具? ああ、それならさっきのロッカールームの入り口脇にあるよ」
彼女はそれを聞くと舞台裏に消え、しばらくしてからモップをもって現れた。
「すいません、舞台は乾拭きですかそれとも水拭きですか?」
「ええと、確か乾拭きだった筈だよ、あぁ君はまだやらなくていいよ。ゆっくりしとけばいいから」
しかし、彼女は黙々とモップ掛けを始めた。


7 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 14:58:20.28 ID:5nGd8v/80
次の日の朝もやはり横山はそこで待っていた。
「今日も早いね」と声を掛けると横山は少し照れたように答える。
「はい、ホテルが近所なんで早く来れました」
「ホテルからって、君はいつもホテルから来てるのかい?」
「いいえ、土曜日の晩だけ泊まってます」
「じゃ昨日はどうしてあんなに早かったの?」
「高速バスが着くのが早朝なんです、だからしかたないんですよ。」
「高速バスって、横山はどこから来てたんだっけ?」
「京都です。金曜日の夜に高速バスに乗って日曜日の夜にまたバスで帰ります」
「そうか、京都からか。大変だな・・・。朝早く着くって何時頃だい?」
「6時前には着きます。それからここで待ってます」
「なら、どこかで時間をつぶしてのんびりしてくればいいのに」
と言うと、横山はその顔を赤らめて
「お金がもったいないんです。バイト代も交通費と宿泊代でいっぱいいっぱいなんで・・」
僕はそんながんばっている子を心の底から支えてやりたいと思っている。
「そうか、がんばれよ。はやくステージに立てるといいな」
「はい。がんばります」
そう言う彼女の笑顔は輝いていた。それから僕は土日だけは6時に鍵を開けるように早朝出勤を続けた。


8 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:00:35.12 ID:5nGd8v/80
そんなある日の事。書類に目を通し、今日のスケジュールの確認をすると1時間は過ぎる。舞台では横山が相変わらず一人掃除をしていた。
「ちょっと休憩をしないか?」
と僕は、コーヒーカップを2つ持ってきて、客席へ誘った。
「ありがとうございます」
彼女はモップを置き素直に隣へ座った。熱いコーヒーで一息つきながら、横山が済まなそうにつぶやく。
「見れば見るほど凄いお腹ですね・・」
口に含んだコーヒーをあやうく噴出しそうになるのを堪えながら思わず隣の横山を見る。それから、彼女の目線を追って自分のお腹に目を落とす。
「これはな、愛情が詰まっている証拠なんだ」
これは、秋元先生の受け売りの言葉である。
「そうなんですか。じゃ戸賀崎さんは誰にも愛情を注いでないんですね。」
彼女はそう言うと目を細めながら微笑んだ。
「ちゃんと注いでいるよ、でも内から溢れる愛情の方が多いからなかなか減らないんだ」
「ほんまですか?」
更にキラキラと笑う。


9 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:02:44.91 ID:5nGd8v/80
「それじゃあさ、横山が思っている僕の愛情ってなにさ?」
そう問いかけると、首をかしげながら暫く考え込む。
「う~ん、そうですね。それは私たちに芸能界の厳しさや素晴らしさを教えてくれたり
注意すべきところはちゃんと叱ってくれて、陽となり陰となり見守ってくれる事だと思います」
そう言う彼女の目を見ていると、それが冗談でなく真剣に答えているんだと分かる。
「それじゃ、戸賀崎さんの思う愛情ってどんなんですか?」
彼女の真面目な答えを聞いてふざけた返事は出来ない、僕は僕なりに一生懸命考えた。
「そっ、それはだな・・。君等のような若い子達を立派な大人に・・AKBになくてはならない人になってもらうようにそれこそ陽となり陰となり見守ってやる事だよ」
しどろもどろなりながらも答える僕に横山はただ黙って耳を傾けていた。
「そして、テレビにバンバン出て有名になってお金持ちになって”戸賀崎さんお世話になりました”って美味しいものをご馳走してくれたらいいなぁと思っているんだ」
「そうしながら、メンバーの愛情もまたお腹に詰め込むんですね」
横山の見事な切り返しに僕はもう笑うしかなかった。
「コーヒーごちそうさまでした。カップ洗っておきますね」
と空になったコーヒーカップを受け取ると横山は舞台裏へと走って行った。
一人残された僕はお腹をさすりながらほんの少し落ち込んだ。


10 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:05:09.12 ID:5nGd8v/80
彼女は掃除を済まし時計を見て「では時間なのでレッスンに行ってきます。」と身支度を始め出て行こうとする。
「おい横山、がんばるのもいいけど怪我だけはするなよ。ちゃんと休むのも大切なことだぞ」
彼女の背中に声を掛ける。
「怪我をするにしても、事務所の救急箱で済む程度にしろよ。」
彼女は振り向きながらこっちを見た。
「ありがとうございます。戸賀崎さんも冗談抜きでもう少し痩せてくださいね。救急箱で済まない病気になりますよ、それじゃ行ってきます」
扉の向こうに消えた彼女の背中に向って
「だから、これは愛情が詰まってるって言ってるじゃん…。ダイエットしようかな…」
とつぶやいた。


11 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:08:29.43 ID:5nGd8v/80
僕は基本的に候補生とは距離を置くようにしている。
なぜなら彼女達はセレクションと言う篩(ふる)いに掛けられるからだ。
もちろん最終決定権は僕ではなく秋元先生にあるわけだが、僕の意見も判断材料にされる。
そこに僕の情が入ると秋元先生に正しい判断が出来なくなる可能性がある。

でも本音は、別れがつらくなるからだ。

僕はそれ以外にもサプライズとして公演中に度々舞台に上がって様々な告知を行っている。
組閣やメンバーの事務所移籍や昇格発表等である。その時には、あくまでも淡々と事務的にしなければならないと思い努めている。


13 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:11:43.54 ID:5nGd8v/80
横山は無事セレクションも通過し、上京して研究生として頑張っていた。
そして、2010年10月10日にチームKに昇格が決まり発表される事となる。
僕は正直その発表を冷静にする自信がなかった。
込み上げるものを抑えられないと思ったのだ。
そんな事をすると皆からあらぬ誤解(恋愛感情ではなく依怙贔屓)がされ彼女自身に迷惑が掛る事も考えられたからだ。
だからあの時、様々な理由を付けて高橋みなみに発表してもらった。


14 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:14:24.41 ID:5nGd8v/80
やがて舞台を降りてきた横山は、僕を見つけると小走りで寄って来て深く頭を下げた。
「ありがとうございました。おかげ様で無事昇格しチームKに所属する事が出来ました」
「おめでとう。これからが大変だな、もう誰のアンダーではなく自分のポジションなんだから覚える事はたくさんあるぞ」
「はい、先輩方に指導して貰いながら今まで以上に頑張って行きます」
横山は少し間を置いて
「これもすべて、戸賀崎さんのおかげです」と言いながら涙をこぼした。
「何を言ってる、全部お前が一生懸命努力してきたからじゃないか。俺なんかに礼を言うなよ」
と僕も貰い泣きを抑えるのに必死だった。
「いえ、私知ってるんです。候補生だった頃、私の為に朝通常の3時間も早く鍵を開けてくれてた事」
「ああっ、あれな。違うよ違う。あの頃はさ仕事が溜まってて早朝出勤しなくちゃならなかったんだ…、
だからお前の為じゃない気にすることはないよ」
「いいえ。あの時私戸賀崎さんの為にもがんばらなあかんって思ってたから、今までやってこれたんです」
僕はその言葉を聞いて涙腺が崩壊しそうだった。


15 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:16:44.88 ID:5nGd8v/80
「さぁ、もう行って。皆がパーティー開いてくれるんだろ?遅れるといけないから」
「わかりました。本当にありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします」
と再び頭を下げると背中を向けて行った。
僕はたまらずあふれだした涙を拭った。その瞬間彼女は突然振り向き
「戸賀崎さん、私あの時の話忘れてませんから!」
と叫んだ。
「…話?」
僕が怪訝な顔をすると
「ほら、テレビにバンバン出るようになったら美味しいものを食べに連れて行ってもらうって」
そう言えば言った覚えがあるかもと思い出す。
「いつか招待しますから。それまで元気でいて下さいね」
「大袈裟なんだよお前は。まるで俺が死ぬ見たいじゃないか」
「そうです。そのままの太った体やったら救急箱で済まない病気になりますよ。いつまでも元気でいてくれへんかったら私が困るんです」
やばい、このままだと本当に号泣してしまいそうになる。
「分かったから、とっとと行け」
そう言うと横山は手を振りながら走って行った。
僕はあの時と同じようにその背中に向かって
「・・・・真面目か」と
つぶやいた。


16 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:19:39.06 ID:5nGd8v/80
「僕たちは 今 話し合うべきなんだ 」

人の機嫌を窺(うかが)うのに必要な判断材料に「表情」「素振り」「声のトーン」などがある。
しかし、感情とは別に自然のふるまいの中で勘違いされる人もいる。
怒ってもないのに、眉間にしわが寄っているだけで「あの人いつも怒ってる」と勘違いされ、
倦厭(けんえん)されたりもする。

板野友美はそのタイプだった。あまり人の輪に入って騒ぐ性格ではなく、
声のトーンも低く言い方もぶっきら棒なので「いつも機嫌が悪そう」と思われていた。
もちろん、同僚たちは板野の事を知っているから何とも思わない。


17 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:21:14.78 ID:5nGd8v/80
AKB48も大きくなってきて、社会の認識度も広くなってきた。これはもちろん今までメンバーを引っ張って来た初期メンバーの功績が大きい。その中には当然板野も含まれる。そして彼女達の次のステップは、後輩達の育成へと進まなくてはならない。

板野友美はその事で悩んでいた。


18 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:23:32.96 ID:5nGd8v/80
撮影の合間の休憩時間、板野は一人椅子に座って周りを見て溜息をついた。
「どうした板野、溜息なんかついて?」
「あっ、戸賀崎さん」
彼女は疲れた表情を隠すことなく僕を見上げた。
「元気なさそうだな、疲れてるのか?」
「ねぇ、この風景見て何か気付かない?」
と僕の問いかけに対して問いで返してきた。
僕はメンバーがめいめい寛いでいる風景を改めて見まわす。
「別にいつもの感じにしか見えないけど」
板野はそこでまた溜息をついた。
「どうやら私、後輩から嫌われているみたい」
「えっ、何でそう思うの?」
「だって、高みなも敦子もにゃんにゃんも皆後輩達に囲まれて楽しそうじゃん」
とまた何度目かの溜息をつく
「そうかな?俺はよくチーム4や研究生のメンバーから板野の話を聞くぞ。」
「どんな?」
「そうだな、板野さんに憧れてるんですとかファッションの相談してみたいとか、
結構お前人気者だぞ」
「その割には、誰もそんな相談持ちかけてこないよ」
訴えかける目で僕を見る板野にアドバイスをする。


19 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:25:46.96 ID:5nGd8v/80
「例えばさ、板野がスポンサーの偉いさんと食事に行ったら緊張するかい?」
「そりゃ私じゃなくても緊張するよ」
「そうだよな。それは高級レストランなら料理マナーとかの格式が高いから粗相しないかとかがあるからだよな」
板野には少し戸惑う様に話を聞いている。
「じゃさ、いつも行き慣れているイタリアンの店にやはり偉いさんと行ったらどうだ?」
「それでもやっぱり緊張すると思う」
「なんで?いつも行き慣れている店なら、料理マナーも心配ないだろう?」
「そうだけど・・・・、それでも偉い人と一緒ならどこでも緊張するよ」
「それはなぜか?食事中にくちゃくちゃ音を立てないか、肘をついていないかとか食事中の態度が気になってしまうからだろ」
彼女は頷きながらも黙って聞いている。


21 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:29:38.85 ID:5nGd8v/80
「じゃなぜそう思ってしまうのか?それは美味しい料理を食べている時、
人は美味しさに気を取られついつい本当の自分を出してしまうんだよ」
「あっ、それ分かるような気がする」
「板野は、普段から近寄り難い孤高のアイドルのように思われてるんだよ」
「そうなの?」
「そう。だからお前はもっと自分をさらけ出さなくちゃならない」
「難しそう。どうしたらいい?」
「簡単な事だよ、後輩を食事に誘って自分を見てもらえばいいんだよ。
さっきも言っただろ?食事中は素の自分が出るって」
でも、板野は眉間にしわを寄せてまた何かを考え込んでいる。
「どう誘えばわからない…。」
「そうだな、例えば後輩が可愛いストラップを付けてたとすると板野ならきっと”あっかわいいじゃん”って思うだけで終わるだろう?」
「そ、そうだね」
「でも、それが峯岸や指原だったらどうだろう。おそらく”わーこれ可愛い誰の?どこで売ってたの?”さらには”今度買ってきてよ!”ぐらいは言うかもしれない」
「…うん」
「それでいいんだよ、”この前美味しそうな店見つけたから一緒に行かない?”って軽い気持ちで誘えばいいんだよ」
それでも心配そうだ。
「で、最終的には自宅に招いて鍋でも振る舞えばもう完璧」
「私に出来るかな?」
僕は板野の為に作戦を考える。
「う~んそうだな・・・。例えばこんなのはどうだ。
先ず板野がさりげなく彼女達に“どこか美味しいイタリアンのお店知らない?”って聞いたりとか、
“あそこの店の新メニュー食べた?”とかを切っ掛けに話しかけたらどうかな?
誰もが板野に何かを尋ねられるとうれしくて色々教えてくれると思うよ。
そしてすかさず“じゃあ今度一緒に行かない?”って自然に誘える筈だろ」
とアドバイスをした。


22 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:32:48.91 ID:5nGd8v/80
「それなら何とか出来そう、今度そのやり方で誘ってみるよ」
板野は嬉しそうに笑った。そこまで話した時スタッフから撮影再開の声が掛り、
椅子を立った板野に僕は声を掛ける。
「なんなら、まず僕を食事に誘ってもいいぞ」
板野は首を少し傾けてながら顎に人差し指を当てて
「う~ん、戸賀崎さんは気心知れてるから、大丈夫」
そう言うと走って行ってしまった。

それから、暫くして彼女のブログに後輩達に囲まれて食事をしている写真が掲載された。
今では家で鍋をする後輩もいるようだ。
でも、板野の雰囲気は変わっていない。
自分を変えるより、そのままの自分を受け入れて貰う方に努力しているのも板野友美らしいと納得してしまう。


24 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:35:47.27 ID:5nGd8v/80
「泣きながら微笑んで」


僕は滅多な事では怒りを露わにしない。でも、あの時だけは怒鳴ってしまった。
それは2010年10月15日「AKB48のオールナイトニッポン」の放送日。

その頃は週刊誌などで秋元才加の熱愛報道が注目されていて、僕は家族が寝静まった家で一人ラジオを聞いていた。
そして番組冒頭、出演者の才加が騒動の釈明をして、いきなりチームKのキャプテン辞任を発表したのだ。
僕はすぐさま秋元先生に電話を入れたが話し中だった。すでにマスコミからの問い合わせが入っているのかも知れない。
とにかく着替えをして、寝室の妻に「出てくる」とだけ告げて家を飛び出した。
車に乗るまでの間もう一度秋元先生に電話を掛けると今度はすぐに出てくれた、
話を聞くと先生も辞任する話事は聞いてはいないとの事だった。


26 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:39:33.03 ID:5nGd8v/80
数日前に、才加自身から秋元先生にキャプテン辞任の申し出はあったようだが
実際は週刊誌に書かれているような事実は無く、先生はキャプテン辞任なんて考えず、
騒がせた謝罪をすればいいと言ったようだった。
その後、先生と僕は今後の善後策を話し合っていた所だった、それがいきなりのあの発表だ。
先生は本人から詳しく話を聞きたいと言ったので僕は、「それじゃ、事務所に連れて行きます」と車をニッポン放送へと走らせた。

放送終了を待って、車に彼女を乗せた。駆け付けたメンバーは心配そうに見送っている。
車内では僕も彼女も何もしゃべらず重苦しい空間だけが二人を包んでいた。


27 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:41:56.56 ID:5nGd8v/80
事務所に入ると秋元先生はすでに待っていた。
「一体どう言うつもりなんだ!説明しなさい!」
僕は初めて声を荒げた。しかし才加は凛とした表情で
「私自身のけじめとしてキャプテン辞任を決めました」
「あのなぁ、先生と僕はお前の為に色々考えていたんだぞ」
「それは、分かってます。でも私は自分の行動に後悔はしていません」
そう言い切る態度が腹だたしくなる。
「チームや他のメンバーにどう説明するんだ。こう言うのはあらかじめ善後策を講じてだな…」
とそこまで言った時、初めて秋元先生が割って入った。
「戸賀崎、ちょっと落ち着け。」
秋元先生は僕をたしなめながら、才加の方を見て落ち着かせる様にとにかくソファーに座ろうと促せた。
「実はお前がラジオでキャプテン辞任を発表した時すぐに優子から電話が入って来たんだ」
二人はソファーに座り話を続ける。僕はコーヒーを用意しながら話を聞いていた。


28 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:44:12.02 ID:5nGd8v/80
「もしかしたら僕がメンバーから怒鳴られたのは初めてかも知れないな」
そう言うと先生は少し笑った。でも才加は堅い表情で見ている。
「優子が”才加のキャプテンはく奪ってどう言う事なんですか!”ってすごい剣幕で怒っててさ」
先生は穏やかに話しをしてる。それから僕の入れたコーヒーを一口すすってから
「いやあ、僕も知らないから放送が終わったら事務所に呼んで話を聞いてみるよとなだめたんだよ」
やがて才加は目線を落としてその話を聞いている。先生はそこで一息置いた。
「確かにお前の気持ちは分かるよ。でももっと冷静に考えろよ、キャプテン辞任後のチームの事考えたか?」
下を向いたまま無言で首を振る才加。
「そこが秋元才加なんだよな」
と秋元先生はまた笑う。その時に突然ドアが開き大島優子が飛び込んできた。


29 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:46:46.88 ID:5nGd8v/80
息を切らした優子は才加を見つけると彼女の前に来ていきなりその頬をぶった。
「あんた、何考えてるの!キャプテンを辞めるって本気で言ってるの?」
一瞬の出来事に何も出来ずにただ見ている事しか出来ない。
「才加、いい?チームKのキャプテンはあんたしかいないんだよ。それにこれはチーム内で決める事、勝手に決めないで!」
優子は大粒の涙を流している。そこで初めて才加も泣いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
それから二人は抱き合って泣いた。やがて優子は才加の顔を見ながら
「でも本当にAKBを辞めるって言わなくて良かった・・・」
と優しく微笑んだ。とにかく、この二人の感情表現はストレートだ。
自分のけじめの為、公にキャプテン辞任を発表する才加と、その戸惑いの感情をそのままぶつける優子。
それでもお互いの気持ちが分かっているから素直に互いの言葉が痛いんだろうと思う。


30 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:49:42.56 ID:5nGd8v/80
「よし、ここで改めて処分を下す」
秋元先生は、思いついたように二人に声を掛ける。
「秋元才加のキャプテン辞任を認める」
優子はすぐにその答えに納得がいかないと何かを言い掛けるが先生は両手を広げてそれを遮りながら
「ただしチームKに新たなキャプテンは立てない。優子をはじめとするKのメンバーで才加の事を支えろ。
そしていつの日かもう一度キャプテンとして戻ってこい」
二人はその答えでようやく笑顔になった。窓の外に目をやると街は白々と明け始めている。
ブラインドカーテンを開けると眩しいくらいの朝陽が部屋いっぱいに差し込み笑い泣きしている二人を照らした。


31 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:52:27.56 ID:5nGd8v/80
後日、先生にあの時の心境を聞いた。
「あれがチームAやBだったら間違いなく他のキャプテンを立てていただろうな、
でもKは団結力がどのチームよりも強い、だから変に他の人をキャプテンに立てるより
ああいう形にした方が更に引き締まったチームになると思ったんだ」
僕はあの一瞬でそこまで考えたとは恐れ入った。やはりAKB48グループをプロデュースするだけの力量のある人だ。

そして翌年2月27日、秋元才加はチームKのキャプテンに復帰した。
今でも相変わらず学校の運動部の部長のように後輩たちをしごいている

「ほら、真面目に柔軟体操をしなさい!怪我をしてからじゃ遅いんだからね」
と激をとばす。でも厳しいだけじゃなくちゃんと思いやりがあるから慕われているのも事実だ。

優子はそんな才加をおちょくりながら今日もチームKは活気にあふれている。


32 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:55:58.92 ID:5nGd8v/80
「上からマリコ」

実は僕は既婚者でかわいい娘もいる。
仕事で疲れて帰って来ても子供の寝顔を見ればそんな事も吹っ飛ぶと誰かが言っていたが本当にそうだ。
家族サービスなんてめったにしないがそれなりに幸せな家庭を築いていると自分では思っている。

たまの休みの日、僕がいつも起きるのは昼近くになってからだ。
パジャマ姿のまま頭をぼりぼり掻きあくび交じりに「おはよう」とリビングに降りて行くと
妻は娘をあやしながら同じく「おはよう」と返す。ソファーに腰をおろし新聞を広げながら再びあくびをする。
妻は・・・、妻と言うのもあれだが僕はいつも彼女を名前で呼んでいる、しかし一般人だしここで名前を明かせない。
と言っても“A”とか“乙”“甲”とかの表記するのもおかしいのでここでは仮名として「菜代梨」とさせてもらう
『と がさき な より』がここでの彼女の呼称にさせてもらう。


33 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:58:33.39 ID:5nGd8v/80
子供を寝かしつけると菜代梨はキッチンに立ち「トーストでいい?」と聞いてくる。
朝食と言うよりもうブランチの時間帯だ。
僕がテーブルに着くと暫くして皿が並べられる、5枚切りのトースト3枚とコーヒーと醤油が掛った半熟の目玉焼きとサラダが僕の定番の朝食だった。
僕は新聞を見ながら食べる、菜代梨は紅茶を飲みながらソファーのテーブルでノートパソコンを開いていた。


34 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:01:03.64 ID:5nGd8v/80
静かな時間が流れる昼前、何気ないこんな時間が好きだ。
やがて食事もすみ彼女の隣に腰をおろしパソコンの画面を覗く、
そこには篠田麻里子Diaryのホームページが開かれていた。
菜代梨は僕の視線に気付きながらもこちらを見る事無くページをクリックしてながら
「マリちゃんのブログはいつみても微笑ましくて好きだわ」
と感想をもらす。


35 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:05:35.72 ID:5nGd8v/80
「特にメンバーを写してる写真なんて最高だと思わない?」
「そうか?寝顔とかスッピンとか撮られている本人からすると嫌だろうなぁって思う写真が多いだろう。
柏木なんておしりの写真だぜ、その反面自分の無防備の写真は撮らせない載せさせないと徹底してるし」
「それがマリちゃんなのよ。覚えてる今年の総選挙の時のマリちゃんのコメント」
「そりゃ覚えてるさその場にいたんだから」
「テレビではいつも“席を譲ってもらわなければAKBでは勝てないと思います”や“つぶすつもりで来て下さい、私はいつも待ってます”
のシーンばっかり使われるけど私はその後のにっこり笑って“そんな心強い後輩が出てきたならば、私は笑顔で卒業したいと思ってます”のあのマリちゃんが堪らない。
最初の凛とした表情は「AKB48の篠田麻里子」で最後の微笑みは皆の愛する「マリちゃん」なのよ。
私あの時思ったの、あぁマリちゃんの存在理由はこれなのねって」
「確かにあのコメント以降メンバーの表情は変わった。あのセリフは篠田しか言えないだろうな」
菜代梨はそこで初めて僕の方を見て何かを思いついた様に立ち上がって
「ねぇ、あなた明日マリちゃんに会うでしょう?」
「あぁ、明日はチームAの公演だからな」
「そう。じゃこれでマリちゃんに何か差し入れしてあげて」
とテーブルの上に3千円を置くと、買い物に行ってくるから子供をお願いと身支度して出て行った。


36 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:09:11.90 ID:5nGd8v/80
公演時間が近づくとメンバーが次々と来ては楽屋は賑やかになってくる。僕は篠田を見つけると支配人室へと呼び出した。
「何ですか」
篠田は少し怪訝そうな表情で入って来る。僕は昨日の家でのやり取りを掻い摘んで話して差し入れの和菓子が入っている紙袋3つを妻からだと渡した。
もちろん菜代梨から貰ったお金に僕が更に大枚をつけ加えて買ったものだから僕からと言っても差支えはなかったがそこまで僕はせこくはない。
篠田は満面の笑みを浮かべる。
「奥さんから?いいんですか。それにしても私の写真の良さをちゃんと分ってるなんて嬉しいな。今度は戸賀崎さんのスナップをいっぱい載せなきゃだね」
「いやいや、そんなのはいいよ。どうせ俺の変な所ばっかり載せるんだろ?」
「失礼な、変な所って言わないで。私は皆の自然体を撮っているんだから」
と心外だと言いたげな表情になる。
「なら何故、自分が被写体の時は自然体じゃないんだよ」
「自分じゃ撮れないんだもん、それに他のメンバーも撮ってくれないし」
「撮らせないの間違いじゃないのか。皆ににらみを効かせているんだろ」
篠田は僕の言葉にただニヤニヤ笑っているだけだった。
「じゃ私準備があるから行きますね」
と部屋を出て行った。


38 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:12:12.57 ID:5nGd8v/80
楽屋の前を通るとちょうど篠田が差し入れを広げて
「みんなこれ戸賀崎さんの奥さんからの差し入れだって、研究生も遠慮なく食べてね」
と振る舞っていた所だった。
僕は“本当は俺の差し入れだけどな”と思いながらメンバーが無防備な篠田の写真を載せられないのなら俺が載せて仇を討つしかないなと廊下を歩きながら考える。
そんな時「戸賀崎さん」と背中から声を掛けられた。振り向くと楽屋口から顔だけ出した篠田がいた。
「お・・おぅ、何だ」
「まさかとは思うけど、戸賀崎さんはメンバーの恥ずかしい写真なんてブログにアップなんてしないわよね」
これにはさすがに驚いてしまった。まさか心が読まれてしまったのかと。
「えっ、そ、そんな事僕がするわけないだろう。ちゃんと許可を貰うよ、あ、当たり前でしょう」
冷静を繕ったつもりだが篠田には見透かされた様な気がしないでもなかった。
「そう。それならいいけど、勝手にそんな事したら分かってるわよね」
と睨むとすぐに例の総選挙の時のようにニッコリと笑う。
「奥さんにごちそうさまって伝えてね。それだけ」
篠田が顔を引っ込ませると僕も背を向けて歩き出した。
何故いつもあいつは上からなんだと憤慨しながら歩くと「♪年上の君は・・♪」とついつい口ずさんでしまった。
「何で、こんな歌を歌っているんだ俺は!」
と思わずつぶやく。そして新たに決意を固めた。
(もし今度、テレビの企画で肝試しがあったなら篠田を強く推薦してやろう)
そう考えると少し気が晴れた。


39 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:16:31.01 ID:5nGd8v/80
「それでも好きだよ」


「それで、AKBは続ける気はあるのか?」
虚を衝いた僕の質問に、指原は戸惑いの視線をこちらに向けた。
週刊誌の記事の真意よりも僕には先ず確かめねばならない問題だったのだ。
今までうつむいたままだった指原は困惑の表情で口籠る。

AKB48グループは今までにないほどの大人数で構成されているアイドルグループだ。
それ故に、様々なジャンルに長けていメンバーもいる。
当然歌唱力やダンスが得意なメンバー、演じる事が好きなメンバー、指原莉乃とは間違いなくバラエティー部門の最適任者と言えるだろう。
そして、指原の人物像を誰かに伝える時僕はいつもこう答えている。
RPGゲームの主人公が序盤に街周りのスライムを倒しLV3位に上がり、銅の剣、皮の盾、旅人の服を装備してようやく隣の国の城へと旅立つ。
そして、橋を渡るとすぐに敵とエンカウントして、さぁやっつけるぞと“たたかう”のコマンド入力をする前に敵の「ラリホー」で眠らされ・・・
王様から「おぉ勇者よ死んでしまうとはなさけない・・」みたいな奴ですよと例えている。


40 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:18:57.24 ID:5nGd8v/80
指原は僕の質問にすぐに答えられない。
「指原、相撲界の暗黙のルールを知っているかい?」
この問いかけに彼女は更に戸惑う表情になり首を横に振る。
僕はいつでも脈絡のない話をいきなりするが悪い癖だ。
「よく力士が場所の途中で引退会見をするだろう、なんでだと思う?」
気付けばさっきから質問ばかりしている。僕は指原の返事を待たなかった。
「土俵は真剣勝負を行う神聖な場所なんだ。誰もが一つでも上の番付に上がりたい一心で試合を取り組む所だ。
そこに、“この場所が終わったらやめようかな”って気持ちで上がられると真剣に闘っている者達に失礼になると考えられている、
だから例えあと少しの取り組みであろうと気持ちが途切れたならそれで終わりなんだ」
指原は僕の目を見ながら話を聞いている。


41 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:21:16.12 ID:5nGd8v/80
「お前なら、AKB劇場のステージに立つ意味は分かるだろう?もうやる気がないのなら他のメンバーの為にも上がってほしくはない」
研究生の頃から彼女を見続けて来たからこそこの言葉を言い出すのはつらい。下を向いて押し黙る彼女に、僕は今度は個人として話す。
「なぁ指原、お前あれから自分のブログ見たか?」
僕の問い掛けに「怖くて見れない」と首を振る。
無理もないオフィシャルブログはコメント管理されているからいいが、ググタスは500限定であってもストレートなコメントがつく。
「とにかく見て見ろ、彼らのお前に対する熱いメッセージを。その方が僕が言うより何倍もお前の心に届くはずだ」
「・・・わかりました、見てみます」
不安そうに答える指原。
「僕からは以上だ。そして僕の質問の答えはじっくり考えて秋元先生に答えてくれ」
彼女は立ち上がって深く頭を下げた。

その次の日、秋元先生から”指原はそこまでへたれじゃなかった”と連絡が入った。


42 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:25:07.32 ID:5nGd8v/80
2012年6月25日、僕は秋元先生としのぶさんと共に武道館にいた。
どうなるかと思われた「第一回ゆび祭り~アイドル臨時総会~」の舞台袖で僕はカメラのファインダー越しに彼女らの熱演を見ていた。
レコード会社の垣根をも飛び越えた第一線で活躍するアイドルグループ達の共演。指原がプロデュースしたイベント「第一回ゆび祭り~アイドル臨時総会~」がそれだ。

おそらく怖かったであろう事は想像できる。でも華やかな舞台上で彼女は一連の騒動を謝罪した。観客からの温かい声援と拍手がそれに応える。
そしてステージの幕は切って下ろされた。次々とPOPテンポの曲が出演したアイドルグループ達によって披露される。
9組のグループの熱演が終わりいよいよ主催者の指原が舞台に上がった。
そこにはあの時事務所で泣き崩れた彼女はいなかった、いつものバカみたいに明るい指原莉乃がいた。

新曲「それでも好きだよ」のイントロが流れ出すと何故か鳥肌がたつ。
さらに曲の途中にオーディエンスが叫ぶ「いる~っ!」の大歓声が響いた瞬間僕は堪え切れず涙を流してしまった。


43 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:26:20.49 ID:5nGd8v/80
秋元先生がコンサート終了後にぽつんと
「本当に指原には泣かされるよな」
と言った言葉にしのぶさんも僕も笑いながら肯いた。
どうやら、先生も僕と同じ気持ちだったようだ。


44 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:30:05.39 ID:5nGd8v/80
「Pioneer」

AKBの階層はヒエラルキー構造になっている。
ファン投票による選挙で選ばれた選抜と言われるメディア対応メンバー。
その後方には、アンダー、ネクスト、フューチャーの各ガールーズ、更にそれぞれのチームに所属する正規メンバー、最後に研究生が控えている。

誰もがオーディションに受かってAKB48に入ってもすぐにステージに立てる訳ではない。
先ずは研究生として厳しいレッスンを受け運よく誰かの代わりにステージに立てたとしてもあくまでもそれは代役だ。
それに研究生にはセレクションと言うふるいがあり、本人の意思に関係なく切られる可能性すらある。
研究生は昇格を目指し、正規メンバーは各ガールーズになれる事を目指し最終的にはメディアに出れる選抜を目指す。
でもそれはかなりつらく長い道のりだ。それに競争相手もたくさんいる、その中から抜け出さなくてはいけない。
要は“あなたの変わりはいくらでもいますよ”の世界で彼女達はもがいている。


45 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:33:24.04 ID:5nGd8v/80
毎年何人かが「卒業」「辞退」と言う形で辞めて行くのも理解できる。
尤も彼女達は若いし、当然AKBが最終目標でもない筈だし無理してしがみつく必要もない、新たな道を歩くのも正しいと思う。
もう何年も劇場支配人をやりながら彼女達の相談に乗っていると「やめたい」と言う言葉を聞く。
でもそれが、一時的な感情から出た言葉かしっかりと考え抜いた言葉なのか分かるようになった。
一時的の感情なら話を聞きながら励ましてやるが、考えた末の答えなら所属事務所や秋元先生に答えを委ねるしかない。
大抵の場合、「誰それのフォローを頼む」と秋元先生から連絡が入り本人と話す時間を作る。
先生は恐らく、メールやググタスの書き込みから彼女達の僅かな変化に気付くのだろう、相変わらずその嗅覚には驚かせられる。
その後、経過を秋元先生に報告して同時に高橋みなみの耳にも入れるのが通常な動きになる。
僕達スタッフは外からフォローし、高橋は自分以外にも研究生なら周りのメンバーにチームなら各キャプテンにフォローを依頼する。


46 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:36:41.66 ID:5nGd8v/80
高橋がすごい所はそんなメンバーの接し方だ。決して「いつでも相談に乗るからな」なんて言わない。
さりげなくレッスン風景を見ていて合間にみんなに「がんれよ」と声を掛ける、
しかしフォローすべきメンバーには「つらくても今が頑張り時だから負けんなよ」と一言つけ加える。
たったそれだけで、ちゃんと見てるからと気付かせてやる気を起こさせるテクニックを持っている。

しかし、それだけで全てが解決する訳ではない。
中には悲しいけどそんな先輩達の声を素直に聞けない者もいる。
その場合は僕の出番だ。大抵の場合昇格発表後に今までの不安や不満が噴き出す事が多い。後輩に抜かれても同期生がいれば何とか頑張れる、
しかし自分だけが残されればモチベーション維持が難しくなるのだろう。
大抵そんな時の第一声は決まっている。「私のどこがダメなんですか?」ではなく「なぜ私じゃなくあの子なんですか?」である。
更には「先輩達に頑張れって言われても、あの人達はテレビや雑誌にバンバン出てるじゃないですか。なら私と変わって下さいって言いたいです」である。
僕は黙って話を聞いている、不満を吐き出させるのも仕事だと思っているし興奮状態ではこちらの話なんて入る筈もない。


47 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:39:33.79 ID:5nGd8v/80
彼女も夜のファミレスで自分の憤りを僕にぶつけていた。僕は否定せずに時折相槌を打ちながら聞いている。
「分かるよ、お前の気持ちは。もし出来るのならば時間を戻して1期生のオープニングメンバーになれれば良かったのにな」
僕は目の前のクリームソーダでのどを湿らせた。彼女の前にはコーヒーが置いてある。
最初ウェイトレスが飲み物を置いた後それぞれ交換しなくてはならないほどミスマッチな飲み物だなと思いながらストローに口を付けた。
「そうしたら、スタートが同じだから上から目線で言われなかったのにな」
彼女は口をぎゅっとつむりながら話を聞いている。


48 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:42:04.71 ID:5nGd8v/80
「でも、オープニングメンバーになるには大変だ。1ヶ月程で歌やダンスを何曲も覚えなくちゃならない、その頃のダンスの先生は厳しくてみんな泣されてたんだぞ。
誰か一人でも出来ないと最初からやり直される。それでもまた間違える、やがて他のメンバーから溜息が漏れ始め最後には“いいかげんにしてよ!”って責められる。
今みたいに先輩達のステージのDVDなんてないからその場で覚えるしかない。お前に出来るか?」
これは脅しでも何でもなく実際に1期生達が通って来た道だ。
「それに何か問題が起こっても自分達で解決しなくてはならないんだ。僕達も手探り状態だからさ、どうやらなければならないのかすらも分からない。
追うべき背中がないんだから仕方ない。あの頃の皆と言えば“いつやめるか?”がもっぱらの話題だった」
そう話しながら当時の様子が思い起こされる。しかし、その頃の皆の表情は泣き顔ばかりでよみがえった。


49 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:46:48.70 ID:5nGd8v/80
「そして、劇場オープン。あれだけ歯を食いしばり涙して頑張ったデビュー。
でもお客さんはたった7人、笑うだろ?中には目の前に誰もいないのに笑顔で手を振るメンバーもいた。
今でも僕は覚えている。涙が止まらなかった、彼女達が可哀そうで。でも僕がそんな事を言い出せない、良かったよって言うしかなかったんだ」
クリームソーダーはもう氷しか残ってなかった。
「2009年の第一回総選挙の結果が出た時に上位7人の事をファンの人達は神7と呼んでいたけど
メンバーからすればオープニング公演に来てくれたお客様はまさしくAKBから見た神7だった」
彼女の表情からもう険しさは消えている。
「それでも、なかなかヒットにも恵まれないまま1期生達は次々と入ってくる後輩達の指導や見本にならなければと頑張ってた。
あの頃が一番辛く誰もがAKBを疑っていたのかも知れない。それでも頑張って来たからこそ今の彼女達がそしてAKBがあるんだ。
それで今の悩んでるお前に先輩達が言う事が出来る最良のアドバイスが“がんばれ!”なんだよ。
だから僕が言う頑張れと全然重みが違うのを分かってあげてほしい」
そこで僕は一息ついてコップの水を飲みほす。

彼女は、「ごめんなさい」と小さな声で謝った。
「いいよ、いいよ謝らなくても。悔しさを抱くのは必要な事だから。大丈夫、お前なら必ず昇格できるから」
「そうかな」と少し微笑むと彼女は目の前のもう冷めてしまったコーヒーに砂糖を入れようとしたがやめてブラックのまま飲んだ。
そして、苦(にが)そうな顔をしながら照れた笑顔を見せた。


50 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:49:54.61 ID:5nGd8v/80
それから何日か経ったその日の公演は研究生達が何人かアンダーで入っていた。
その中にあの彼女もいた。「overture」で幕が上がり30分程して舞台袖の目立たない所に高橋が顔をのぞかせる。
最初僕は気付かなかったが客席の人混みの中に高橋のマネージャを見かけたので声を掛けた。
「あれ、何でここに?今日はテレビ収録じゃなかったですか?」
彼は舞台袖を指さしながら「そうですよ。移動中にコンビニのおにぎり食べるからって時間を作ったんですよ彼女」
とあきれ顔でそれでも誇らしそうに笑って答える。


52 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:52:05.93 ID:5nGd8v/80
「おはよう」と高橋に背後からそっと声を掛ける。
「今日はどうした?」
「別に何もないですよ、たまたま近くを通ったし時間も少し余裕があったから寄っただけですよ。」
と微笑みながら答えたが分単位のスケジュールで動いている高橋にそんな余裕がない事ぐらい僕でも分かる。
10分も見ていただろうか、一人ニッコリ笑いながら頷き
「それじゃ、そろそろ仕事に行かなきゃならないんでこれで失礼します」
と高橋は軽く会釈をした。
「高橋」と僕は彼女を呼び止めて「本当に、ご苦労様」と声を掛けた。
その言葉できっと僕の気持ちが伝わったのだろう「彼女の事、よろしくお願いします」と言葉を残し劇場を後にして行った。
高橋が見守っていた彼女はもうあの時の彼女ではなかった、上に這い上がろうともがくエネルギーを孕(はら)んでいるように見えた。


秋元先生が言う様に「チャンスは平等じゃない。でも頑張らなくてはチャンスは訪れない」かも知れない。
僕は頑張っている彼女達の中の「AKBism」を先輩から後輩へそして次世代へと伝わればと思っている。


54 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:57:29.11 ID:5nGd8v/80
「BIRD」

テレビ局の廊下を歩いていると、曲がり角でいきなり腕を引っ張られた。驚いて見たらそこには峯岸がいた。
「高みなを助けて、ねぇ戸賀崎さん!」
そう叫ぶ峯岸は涙をぼろぼろ流している。僕には彼女が何を言いたいかはすぐに分かった。
例の週刊誌の記事が原因だ、誰もがどう切り出していいか分からない、だって問題は高橋ではなくその家族にあったのだから。
「あぁ、分かった。今度話を聞くから」
と言っても峯岸は聞かない。
「早くしないと、高みなが・・」
これで何人目だと思いながら、そろそろ話を聞かなくてはと考える。
「今夜のテレビ収録が終わったら話してみるよ」
と峯岸をなだめた。


55 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:57:34.67 ID:0tZx++9j0
短編集だけど読み応えある
頑張ってー

57 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:00:32.90 ID:5nGd8v/80
>>55

ありがとうございます。
もうしばらくお付き合いください。

58 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:02:31.84 ID:0tZx++9j0
ニ○トだから時間はいくらでもあるんでいつまでも読みますよーw


56 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:58:35.74 ID:5nGd8v/80
高橋の態度は仕事の面では何ら変わったところは見えないが楽屋内では明らかに違うのが分かる。
寡黙で近寄りがたい雰囲気を醸(かも)し出していた。
「高橋、ちょっと打ち合わせいいかな」
と僕は楽屋入り口でA4サイズの書類が入ったクリアファイルを頭の上で振った。
「あっ、はい」
高橋は返事をして反射的に立ちあがる。皆横目で僕を見ていた。


59 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:03:13.32 ID:5nGd8v/80
あらかじめテレビ局側から一つ会議室を開けてもらったのでそこに二人で入った。
「忙しいのに悪いな」
「いえ、仕事ですから」
4つほど寄せられた会議用の机の向かい合わせに座り僕は話を切り出す。
「実は打ち合わせの話じゃないんだ」
そう話すと彼女はすぐに感づいたようだった。
「・・・ご迷惑をお掛けして、すいません」
と頭を下げる。でも僕もどう話をしようか迷っているから言葉がすぐに出ない。
「実は今日、峯岸に泣きつかれて困ったんだ」
「みぃちゃんが?」
「そう、お前の事を助けてあげてって」
見る見るうちに高橋の顔がくしゃくしゃになり、目に涙が浮かび始めた。
「峯岸だけじゃない、そうあの記事が出た日に篠田が僕のところに来て“みなみをフォローしてあげて”って俺に頭を下げたんだ、
信じられるか?あの麻里子様がだぞ。他に前田に優子、才加や小嶋や何人か次々にやって来ては異口同音にお前の心配ばかりを訴えたんだ」
高橋はその話を黙って聞いている。
「メンバーの皆はお前が何を考えているのか分かっているんだな。お前はさっきまで自分が抜けた後の体制の事考えていたんだろう?」
その言葉で思わず顔を上げ驚いたように僕を見つめた。


60 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:07:41.72 ID:5nGd8v/80
「別にお前の思っている事を推理するのは難しい事ではないよ。それがメンバーも分かったからこそ僕のところに来たんだから」
僕はその場の空気を和らげようと少しだけ笑った。
「…確かに」と高橋は口を開く「今回の事で私はAKBに迷惑を掛けました。キャプテンとして何らかの責任を取らなければと考えてましたし、最悪卒業も視野に入れなければとも思っていました。
そうするとその後の体制の事もちゃんとしてやらなくてはと・・・」
「やっぱりお前はAKBの高みなだな。でもこう言っては語弊があるかもしれないが高橋が抜けてもAKBは走り続けられると思うよ、そこまで弱くはないさ。それも高橋、お前がそうなるように引っ張ってきたんだろう?」
「・・・はい」
「お前を見てるとなんて言うのかな、いつもAKBに縛られているような気がするんだ。もちろんそれが悪いとは言わないけど特にお前はその想いが強すぎるんだ。
自分を殺してまでも、これはAKBにとってプラスかマイナスかって究極の選択しているような気がするんだよな」
「だって私からAKBを取ったら何も残りませんから」
「皆が心配しているのはそこなんだよ。事実お前のそう言う姿勢を見てメンバーは高橋について来てるんだしメンバーやスタッフやファンはもちろんの事メディアさへそれは認知していると思う。
でも見方を変えるとAKBと言う鳥籠に囚われている様にも見えるんだ」
「でも、それは私が望んだ事ですから…」
「そんな事、今は誰も望んじゃいないよ。AKBの高みなならそれが正解だろう、しかしお前の中の高橋みなみはどうなんだ?
前田も峯岸も篠田も小嶋も板野も優子も誰もが高橋みなみとしての答えを聞きたいんだと思うよ」
高橋は暫く黙って泣いていた。


61 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:10:59.17 ID:5nGd8v/80
私は・・・・私はAKBでいたい・・・」
やがて絞り出すような声でそう答えをだした。
「もし、その答えがわがままと言うのなら皆お前のわがままを待っているんだ。少しは荷物を皆に持ってもらえ」
僕はおもむろに携帯を取り出すとダイヤルしてから高橋に渡して
「お前のわがままを一番聞きたがっている先生に聞かせてやってくれ」
そう言うと僕は部屋を出た。

楽屋に行くと皆帰る事無く待っていた。
誰一人結果を聞きもせず黙ってこちらを見ている。
僕はそれに応えるように無言でVサインを作ると耳もつんざく様な歓声が上がった。
中には抱き合いながら泣いているメンバーもいる。

その日の夜、高橋はブログで高橋みなみ個人としての想いを発表した。


62 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:14:16.23 ID:5nGd8v/80
「アボガドじゃね~し…」


時折秋元先生からスタッフ宛の業務連絡で「現状報告会」開催の招集が掛る。その時々でメンバーや人数は違うのだが主要な人員は集まる。

その日もパソコンメールで「現状報告会」の招集が告げられた。
いつもと違うのはメンバー限定の招集だった様で、場所は都内のとある高級中華料理店、それなりの服装でいかなければ恥ずかしい所だ。
約束の20分前に店に着き名前を告げると個室に案内された。
部屋に入るとまだ誰もいなかったが数分もすると、衣装担当の茅野しのぶさんがやって来た。
「こんにちは、あれ戸賀崎さんだけ?」
「うん。まだ誰も来てないみたい」
僕たちは他愛のない話をしながら皆の到着を待っていた。


63 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:16:40.07 ID:5nGd8v/80
やがて、約束の時間を15分ほど過ぎた頃「ごめん、ごめん。遅くなっちゃった」
と秋元先生が入って来た。先生は席に着くと店員を呼び料理を運ぶように頼んだ。
「先生、今日は3人だけなんですか?」
「そうだよ。いつも君達には世話になっているからね」
きょとんとしている僕達に
「いやぁ、こうでもしないと皆仕事が忙しくって集まれないだろう。だから半ば強制的に来てもらったんだよ」
そう言うと先生はまるで子供のような悪戯っぽい目で笑った。要は先生が企画した慰労のサプライズなのだ。


64 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:19:08.67 ID:5nGd8v/80
やがて中央のターンテーブルにはいくつもの大皿が並んだ。僕達大食感が集まればターンテーブルは停まる事無く回り続ける。
食べながらでも一応は「現状報告会」なのでそれぞれの立場から報告はする。
しのぶさんは今後の曲のイメージを聞きそのコンセプトに合ったデザインをイメージする。
僕はドームコンサートの進行状況やメンバー達の近況を報告した。
それも全て最初の30分位で、後は食事に集中する。
1時間もすると料理もほぼ無くなりお酒も回り始めるので取り留めもない雑談へ花が咲く。
先生がメガネを外すとご機嫌な証拠である。


65 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:21:48.35 ID:5nGd8v/80
僕は手を上げ「提案があるんですけど」と言うといきなり「採用!」と先生は僕を指さす。
「いや、先生。まだ何も言ってませんけど」
「そうだっけ?じゃプレゼン続けて」
まさしく上機嫌である。
「48グループには何組かの派生ユニットがあるじゃないですか?そこでですね、体格も似ている僕達3人も新ユニットとしてデビューしませんか?」
「おもしろそうだな、続けて」
「はい。でも彼女達には到底かなわないので色物的にグループ名も”ノースリーブス”をもじって”スリーデーブス”でデビューするんです。どうですか?」
するとすかさずしのぶさんが
「なに?そのグループ名特に最後の”ブス”がちょっとね。一応こう見えても私女なのよ」
と異議を唱える。僕は心の中で(引っ掛かるところデブじゃなくてそこ?)と突っ込む。
「そうねぇグループ名は”DiVA”をもじってD・e・B・U・e・Rで”DeBUeR”のデーブァーでどう?かっこよくない」
秋元先生はこう言う脱線話が好きだ。むしろこう言う取り留めのない話を大切にしているようにも見える。
そしてこんな雑談の中から色々ヒントを見つけ、詞や構成を作り出すのだからすごい。


66 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:25:13.10 ID:5nGd8v/80
「おもしろいなぁそれ、でも君達ひねりが足りないよ。どうせ3人いるのだから3段オチで行かなくちゃ」
おそらくすごいスピードで色々アイディアを練っているのだろうと簡単に想像できる。
「先ず僕が渡り廊下を走り抜ける、すると振動で渡り廊下にヒビが入り。
次に戸賀崎が走って基礎部分にまで深刻なダメージが入る。
最後にしのぶが走ると渡り廊下は崩落してしまう。名付けて”渡り廊下こわし隊”でどうだ」
「何で私がオチなんですか?」
と再び異議を唱えるしのぶさんはほっぺを膨らまさせさらに丸顔になった。
さらに先生の妄想は続き、僕たちは頭の中でイメージした。


67 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 18:01:18.31 ID:5nGd8v/80
 

 ドームコンサート最終日の終盤、僕はいつものようにタキシードを来て壇上に現れる。
それを見て、観客達はもちろんメンバー内でもざわめきが起きる。
「ここで皆さんにご報告があります」
一部のメンバーは顔をひきつらせている。
「先ずはこれをご覧ください」
会場は暗転しステージ後ろの巨大スクリーンに秋元先生からのメールが映し出される。
そしてティンパニーロール。

“この念願だったTOKYODOMEコンサートを記念して新派生ユニットを発表します。”

そこで何行かの空白があり画面ではスクロールされる。
やがて、それが発表された。

“そのグループ名は「走り廊下こわし隊!0.3t」”


68 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 18:05:26.00 ID:5nGd8v/80
ざわめきと笑いが場内を包む。渡辺麻友は周りの誰かに何か聞かれたのだろう、とまどった顔で首を横に振っている。
画面はさらにスクロールする。

“そして、そのメンバーとは・・・・”
スクロール。

“秋元康”
効果音と共にググタスのいつもの写真が大きく映し出される。

“戸賀崎智信”
同じくググタスの僕の顔が先生の顔にかぶって大写しになる。

“そして期待の大型新人 茅野しのぶ!”
しのぶさんにだけが感嘆符が付けられていた。そして同じようにググタスのあの顔が大写しになりやがて3人が並んだ画像に変わった。
会場はもう騒然としている。

“デビュー曲。秋元康 作詞 井上 ヨシマサ 作編曲 ”
文字がスクロールする。やがて大きなカラフル文字でそれは発表された。

「イベリ子豚じゃね~し…」


69 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 18:10:36.38 ID:5nGd8v/80
先生の妄想話に僕たちは忠実に脳内再生する事が出来た。もう僕たちは爆笑の渦につつまれている。
「コンサートの設定や準備は僕がスケ―ジュール管理します」
と僕が言うとしのぶさんは
「衣装はまかせといて。二人にはプレスリーさながらのフリルがたくさんついたシャツと紐がたくさんぶら下がったクリーム色のスーツで・・そ
して私はメンバーがよく着るチェックのブレザーのミニスカートなんかが似合うんじゃないかしら」
と遠い目をしている。僕は言うか言うまいか躊躇していたがすかさず先生が「だがことわる!」と言ってくれた。
「ところで先生」と僕は切り出す「やはりこれも”Aタイプ””Bタイプ””劇場版”って3タイプ出しますか?」
「そうだな・・・。そうだ、それぞれリードボーカルを変えよう。そしてリードボーカル毎に各々が名付けたグループ名にしよう」
相変わらず突拍子のない事を言い出す。


70 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 18:14:55.33 ID:5nGd8v/80
「それぞれ、秋元ボーカルの”Aタイプ” 戸賀崎ボーカルの”Tタイプ” しのぶボーカルの”Sタイプ”で出そう」
「グループ名が変わるとオリコン上の集計は分散されますよ」
「別にチャートインは狙ってはいないさ。なんならインディーズで出してもいいし」
もうどこまで本気か分からない。
「コンサートは彼女達の劇場公演の前にたまにサプライズで歌わせてもらう。それもどのバージョンで歌うのかも分からない。おもしろそうだろ?」
「では、私達のデビュー曲を聞いてください。今日はSバージョンのDeBUeRがお贈りする”イベリ子豚じゃね~し…”」
しのぶさんは想像した事を話しながら笑い、そして
「イベリコ豚の話をしていたら何か焼き肉が食べたくなってきちゃった!ねぇ二次会焼き肉に行かない?」
と言うので僕はすかさず
「今ここで高級中華をたくさん食べたじゃないですか。普通二次会はスイーツでしょう。ねぇ、先生?」
と秋元先生を見ると携帯電話を出して
「もしもし、叙々苑さんですか?3人予約大丈夫ですか・・・」
「焼き肉は別腹だから」
しのぶさんはウキウキ顔だ。


71 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 18:18:42.03 ID:5nGd8v/80
ここでスクリーンは暗転する。
そして画面いっぱいに・・・

DOCUMENTARY of tgsk   
  Meal must go on  ~僕は二人を相手しながら、肥えて行く~

ED曲「ファット ピッグ」

・・・・・・・。


77 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:15:36.31 ID:5nGd8v/80
「マジスカロックンロール」


毎年、大きなコンサートが終わった後は秋元先生主催の食事会が開かれる。
そこには全48グループのメンバーはもちろんの事、全スタッフも参加するし卒業したメンバーも時間が合えば参加も認められる。
それに、あらかじめ収録済の番組が多い編成期に行うのも恒例だ。特に配慮されているのが中高生のメンバーの事だ、
高校生は希望すれば保護者の同伴が認められるし、中学生はそれが絶対条件になる。
さらに20時が過ぎてもいられるようにリアルカメラ等も含め一切の営業用のカメラ撮影は禁止として、皆が心行くまで楽しめるように配慮されている。
会場は東京のホテルの会場が使われるので参加できない地方のメンバーの為にも後日各支配人により地元で食事会が開催されほぼ全員参加出来る事となる。


78 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:19:51.04 ID:5nGd8v/80
食事スタイルは、バイキング方式で立ち回ってもおかしくはない状態になっている。
これも仕事の都合上途中参加するメンバーや同じように途中退場しても目立たないようにと考えられている。

かなり広い宴会場が一杯になるほど人で埋まっている。
何列もの白いテーブルクロスが掛けられた大きく長いテーブルに皆が畏(かしこ)まって座っている。
秋元先生は一段高い台上に上がり日頃の労をねぎらう言葉と、未成年は飲酒をしない事と冗句交じりに話した後乾杯をして食事会が始まった。
皆が一斉に食べ物を取りに行くからいくつか設置されているフードコーナーは混雑した。

食事が始まると、皆それぞれ気のおけない者同士集まって固まるのでちょっとした相関図が見れるのがおもしろい。
先生はその一つ一つのテーブルを丁寧に回り挨拶をする。
「たかみな、お疲れさん。それにしてもここのテーブルは大皿をそのまま持って来なければ間に合わないんじゃないか?」
とメンバーを見てチャチャを入れる。すると一人が「それ、私へ当てつけですか!」とほっぺを膨らませる。先生はそんな彼女を見て微笑んだ。
「相変わらず元気そうで何よりだ。活躍はいつも見てるよ。今日はよく来てくれたね。」
とねぎらう。


79 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:23:46.99 ID:5nGd8v/80
その横で板野と柏木が会場を見回しながら
「ねぇあの舞台ってさどこかの俳優さんが結婚記者会見行わなかった?」
「あったあった」と柏木が目を大きく見開き、彼女の癖なのか口を手で隠しながら答える
「確かお嫁さんがぶんきんたか しまだ で綺麗だったのを覚えてる」
と雑談をしていた。

また隣の席ではメンバー同士の話に強引に割り込む。
先生はこんな話の中からも自身の作品のヒントを見つけ出す事がある、だから様々なジャンルを超えた雑談を好んだ。
「何、なんの話をしてるの?」
割り込んだのは元チーム4のメンバーの集まりだった。
「ネットの掲示板で自分の事が書かれたスレを見るかどうかを話していたんです」
普段から声が大きい彼女がやや興奮しているのか更に声を大きくして話す。
隣で話を聞いた秋元先生は顔をしかめながら「お前はちょっとうるさいよ」と落ち着かせる。


80 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:29:05.73 ID:5nGd8v/80
「要はそれで見る見ないで分かれてるんだな。それぞれの意見を聞かせてくれよ」
とワクワク顔で各々を見回す。すると皆が思い思いディスカッションを始めた。
見ない派は“嫌な気分になる”と言うのが大半の意見、
それとは逆に見る、または見ても大丈夫派は“たまに自分でも気付かない欠点を知る事が出来る”“割り切る事が出来る”等の意見が出た。
「いやー驚いた、皆しっかりした意見を持っているんだな。うれしいな」
と素直に喜ぶ。が、皆は先生の意見を待っていた。
「先生はどう思います?」
「僕は見る派かな。だって自分の事で話し合ってくれてるんだからね、面白いじゃん」
「それじゃ、ググタスのコメント欄にアンチの人達から書き込みがあったらどうします?」
「その場合は、釈明すべきところはちゃんと言うよ。それでも納まらなかったら暫く書かない」
その話を聞いてある一人が
「それじゃ私もそんな風になったらしばらく書かないでおこうっと」
と手をたたく。
「それはだめだ。君たちはちゃんと更新しなけりゃいけない」
「ええっ、何でですか?不公平じゃないですか!」
その場にいた誰もがそれぞれ不平をぶつける。それを笑いながら受け止めて
「だって僕はアイドルじゃないもん」
の一言で遮る。その言葉で更にヒートアップする彼女達。
気がつけばその騒ぎで周りのテーブルにいた者達も集まって来ていてちょっとした騒ぎになっていた。
「分かったから、お前ら落ち着け」
ようやく静かになりその場の皆が先生に注目する。


81 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:34:40.48 ID:5nGd8v/80
「いいか、ネット世界は様々な人達がいる混沌とした一つの社会とも言える。
その中アイドルの一人の事が話題に上がって完全一致の答えなど出ない事が当たり前なんだ。
要は自分の都合のいい答えを見たいのなら事務所経由で送られてくるファンレターを読んでればいい事。
ネットでは“あばたもえくぼ”と“坊主憎けりゃ”もいる事を承知しなければいけない」
皆は黙って聞いている。
「そもそも、アンチテーゼとは何か?確かにその者達はアノニマスの特性を生かして辛辣な言葉を平気で書きなぐる。
ほとんどの人がそうだと思うが、自分が今どんな状態にいるのか分からないでいる。例えば大場、お前は今幸せかい?」
急に話を振られた大場は少しあわてながらも「多分、幸せなんだと思います・・」と答える。
「そうかそれは良かった。もちろん、幸せの定義は人それぞれ違うから一概にこれが幸せだと断言出来ないが自分自身でも本当に幸せなのかいつも悩んでる。
そこで手っ取り早くそれを知る方法が他人と比べる事なんだ。」
先生の講義は熱を帯びて来た。すると集まっていたギャラリーに少し変化が見られるようになった。
後方にいたメンバーは少しづつその場を離れ始め、テーブルのメンバーも飲み物をいきなり飲み干し
“話は聞きますがその前に飲み物のお代わりをして来ます”とでも言いたいかのようにあちこちで席を立つ始めた。
それでも、先生の話は続く。
「・・・だから、誰かを否定する事で自分が大人になったような気になるんだ。
要するにアンチは人気者になると出てくる副産物として考えるといいんだよ」
僕はそっと先生に耳打ちする。
「先生、あいつら全然聞いてませんよ」
先生は「それでいいんだよ」とにやりと笑った。
「彼女達を黙らせるのは難しい話をするのが一番なんだ、しかしあの二人を相手にこの手の話でごまかすのは至難の業だな」
と前方に目線を移す。
その先には高橋と横山の二人だけが先生の話を一言も聞き洩らさないと言う真剣な眼差しでこちらを見ていた。


82 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:38:13.77 ID:5nGd8v/80
僕たちは場を移しロビーのソファーに座って一息ついていた。
「いつかあの二人主演のドラマを作ってみたいな・・」
とつぶやいたと思ったら腕を組んで暫く天井を見上げたまま考え込んだ。
「なぁ、こんなのはどうだろ」
先生は僕の方を見ないで話を始めた。

タイトルは「マジすか学園?」。これは、「4」なのか「新」なのかの「?」だ。

春の嵐が吹きすさぶある日、学園に新任の教師が赴任してくる所から話は始まる。
カメラがその教師の足元から上にパンして、やがて画面に教師の背中と校門が写る。
新任教師はふと校名が書かれた看板を見るが風で飛ばされて来た新聞がからみついて「馬路」と「加女学園」しか見えない、
これもタイトルと同じ意味合いを匂わせる。カメラは更に上に上がり上空から学園全体を写し出す。
校舎の窓ガラスのほとんどは割られていて玄関にはガラス替わりのベニヤ板がはめられている。


83 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:42:54.10 ID:5nGd8v/80
新任教師は横山由依演じるおたべ事「横山先生」。
そして学園理事長兼学園長は高橋みなみ演じる元警視庁抜暮南警察署連続暴行事件捜査本部主任警部補の「高橋学園長」。
高橋は前田の逮捕後一連の事件の背景を鑑みて、諸悪の根源は彼女達を取り巻く教育にあると気付く。
幸いにも彼女は大財閥の一人娘であり祖父は高名な政治家であった。
それから数年後彼女は警視庁を退職する、父は落胆するが娘の話を聞いて後押しをする事を決める。
父の「おじいちゃんに相談しなさい」とのアドバイスで後日祖父の館へと訪れた。
祖父は孫娘のみなみをたいそう可愛がっている、おそらくよほどの事がない限り彼女の願いは叶えられた。
「みなみ、よく来たねうれしいよ」
「おじいさま、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ああ元気だよ。みなみに会えたからもっと元気になれたよ」
と目を細める。
「何でもきょうは願い事があるんだって?」
「そうなんです」
高橋は今までの経緯と今の自分の想いを話した。すると祖父の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ始めた。
「お前は本当に優しい子だね。分かったみなみのが思い描く理想の為の学校をすぐにでも建ててあげよう」
「違うんです、ある学園を買い取って欲しいんです」
「うん?既存の学園をか」
「そうです。あの前田がいた“馬路須加女学園”をです」
「でも、そこは荒れていて危なくないか?」
「いえあそこから始めたいんです」
「そこまで言うなら、お前の言う通りしてあげるよ」
祖父は執事を呼び学園買い取りの指示をした。
「ありがとう、おじいさま」
「みなみの為なら、何だって買ってやるよ」
と今度は豪快に笑う祖父だった。


84 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:47:44.20 ID:5nGd8v/80
学園の買収はスムーズに進んだ。もっとも前理事長がこんなすさんだ学校を手放したがっていたのも後押しした形となった。
そして、新理事長になった高橋があの頃の生徒達のその後を知らべ唯一教師になっていた横山に目を付けた。
彼女は元々頭脳明晰で無用な争いを嫌っていた。それによりも、道徳に関する事にはしっかりした信念を持っていた事が呼び寄せた第一の理由だった。

学園生活が始まると横山の事細かい注意が炸裂する。
廊下は走るなとかの小学生にするような注意はもちろんの事、校外の電車内でも買い食いしているのを見つけると「マナー違反ですよ」と注意した。
いつしか生徒達からウザがられるのも時間はかからなかった。


85 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:49:52.87 ID:5nGd8v/80
ここまで話すと先生は一息ついた。
「面白そうですね。登場人物も馬路須加学園関連なら完全に4じゃないですか、そして主題歌は「UZA」なんですね」
「その頃にはもう古いよ。ウザいのは教師なんだから歌は「ウザ先!」歌うのは渡辺麻友が演じた“宇佐しじみ”だ」
「えっ、あのさばドルの?ぜんぜん関係ないじゃないですか」
と僕が驚いていると
「コラボの可能性もあるし、もしかすると「さばドル」のDVDの売り上げにも貢献出来るかもしれないだろう」
プロデューサーともなるとありとあらゆるところでも経営的な事も考えていなくてはいけないんだなと感心した。

先生は構想の続きを話し始める。


86 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:54:43.10 ID:5nGd8v/80
やがて、ある事件が起こる。横山の受け持ったクラスの一人が交通事故に遭う。生徒は意識不明の重体、それにひき逃げだった。
警察の調べで犯人らしき者まではたどり着いたが手が出せない状態に陥っていた。
犯人はアメリカ海兵隊の兵士で、基地内に逃げ込まれると治外法権になり警察は手が出せない。

正義感の強い横山は意識が戻らない生徒の手を握って仇を討つ事を誓う。
それからすぐに休職を申し出て、更に高橋財閥の助けも借りて犯人がいる基地内のスーパーのパートとして潜り込む事に成功する。
そして少しずつ時間を掛けて周りの人達の信頼を得つつ犯人の事を調べて行った。
そんなある日、ようやく犯人を突き止めたがその時は遅くすでに彼は本国へと帰還した後だった。
もう日本の法律ではどうする事も出来なくなった。

舞台はアメリカへと移る。横山もすぐに彼の後を追いアメリカに飛ぶがさすがにあらかじめ調べついていた基地内までは潜り込めなかった。
横山はこれは長期戦になると覚悟を決め、生活の拠点をアメリカに移した。
それから徹底的に調査して彼は基地内の住宅ではなく基地近くのアパートに住んでいる事が分かった。

横山は綿密な復讐計画を立てる。
高橋から資金面の協力を頼み彼の住んでいるアパートに住む事に成功した部屋は彼の住んでいる部屋のすぐ階下だった。
そしてじわじわと犯人を罠に掛けるミッションが始まったのだ。
横山は事あるごとに文句を言う事にする。“階段の上がる音がうるさい”とか“部屋を歩く音がうるさい”とか些細な事で彼の部屋のドアを叩き文句を言った。
そうしながら彼を精神的に追い詰めて行く。しかしこれは復讐劇の序章に過ぎない。


87 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 22:56:31.23 ID:0tZx++9j0
なんかどんどんスケールがどでかくなっていくw

93 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 10:08:30.51 ID:2ul5JyHX0
文句を言うときは、常軌を逸しないように気を付けた。時間帯や言葉遣いそして態度、しかし何の苦情を言っているかの明確化はちゃんとした。
この際の大切な事それは近隣の住人にこのやり取りを認識させる事だった。

数ヶ月も及ぶ横山の攻撃はボディーブローのようにじわじわと彼の精神を追い込んで行き、それはある日突然訪れた。
横山は日曜日の朝9時彼のドアを叩く、彼は無視をしようと決めたがノックはずっと続く、
決して強くはなく普通のノックなのだが継続的にされるとイライラしてくる。
彼はついに立ちあがり枕元から銃を持ち出しドアへ向かった。銃を持った右手を体の後ろに隠しドアを開ける。
「おはようございます。毎回注意してますけど・・・」
と言いかけた時、彼の異変に気付いた。これは「横山」ではなく「おたべ」の勘が働いたものだった。
銃口がこちらを向いた瞬間、横山は左手で彼の右腕を上へと払いのけ懐に飛び込んだ。払いのけられた反動で銃爪がひかれ廊下の壁に弾痕をつけた。
横山は懐に飛び込んだと同時に右の拳でみぞおちにパンチを見舞うそしてさらに足払いで床に倒した。それは一瞬の出来事だった。
銃声がしたので何人かがドアから顔を出したが横山はそれを制し「Enter the room! And  Please contact the police」(中に入って!そして警察に連絡して)と叫ぶ。
彼は倒れた拍子に腰を強く打ったのか動けずにいた。横山は拳銃を足で蹴飛ばした。


94 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 10:22:27.59 ID:2ul5JyHX0
数分後、警察が駆けつけ彼は取り押さえられ横山は事情調査を受けていた。
後日アパートの住人達の証言もあり2人の間にはいざこざがありそれが原因だと分かったが、
苦情の内容はともかく横山のそれを言う態度や時間帯など決して異常だとは認められなかった。
それに横山に対する腹いせに床を強く踏み鳴らしていた事もやはり住人の証言から分かった。
それで最終的に彼は殺人未遂で立件される。それ以外にも今回の事だけでなく日本での事件の事も取り沙汰され海兵隊を除隊処分になり、
退職金やその後受けられたであろう恩給もなくなり何もかも失ったのであった。
そして全てが終わった冬のある日、横山は日本へと帰った。

空港へ迎えに来ていたのは高橋だった。横山は頭を下げて「ようやく、終わりました」と告げた。
「ご苦労さん。長かったけどよくあきらめなかったな」
「高橋理事長の助けがあったからですよ」
横山のその言葉に高橋は少し表情を曇らせた。
「実は私はもう理事長ではないんだ。今は親の会社の一つを任されている」
「えっ、では学園はどうなっているんですか?」
「今は大島優香と大島優希の姉妹が学園長と理事長を務めている。たまに入れ替わっているみたいだけど誰も気付かないようだ」
「あの二人が?」
「そう、彼女達のやり方でね。一緒になって盛り上がり生徒達の目線にまで下がってまるで友達のように接しながら立ち直らせようとしているよ。
2人も私が呼び寄せた。そう言う事だから横山の休職扱いだが私ももう学園から手を引いたから自動的に退職となってしまった」
「分かりました、それは構いません。それより頼んでおいた件ですけど…」
「あぁ、あの生徒の事だな。ちゃんと調べているよ、早速行ってみるか」
「ぜひお願いします。いち早く知らせたいので」
高橋は傍にいた運転手に横山の荷物を持たせ車へと向かった。


95 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 10:32:27.02 ID:2ul5JyHX0
東京郊外の閑静な街並みの一画にその家はあった、北風が強い所為か土地柄なのか寒さが足元から上がってくる。
あれから彼女は一命を取りとめ長いリハビリを経て今は何不自由のない生活を送れるまでに回復していた。
呼び鈴で出てきた彼女は高橋の顔を見てすぐに気付いたようだったが後ろにいる横山に気付くのには暫く掛った。
「もしかして、横山先生?」
「そうです。すっかり元気なられてよかったです」
それから二人はリビングに通される。彼女の話によると卒業してから2年後に結婚をして今は1歳の子供の母親になっていた。
「私あの事故の所為で皆より1年卒業が遅れちゃったから一時学校も辞めようとしたんだけど、
高橋先生が横山先生の為にも頑張って言ってくれて…でも横山先生はあの事故以降学園からいなくなったって友達に聞いていたから、
正直高橋先生の話の意味が分からなかったの」
高橋はその話を受けて
「ごめんなさいね。横山先生はあなたを傷つけた犯人を追いかけていたの。ただ色々あって詳しくは話せなかったのよ」
「えっ、でもアメリカ海兵隊だから手が出せないって聞かされてきたんだけど」
「ええ、だから詳しくは話せなかったの」
横山は出されたハーブティーを一口飲んでから結果だけを伝えた。
「あの犯人は今法によって裁かれています。間もなく日本にも移送されてあの事故について取り調べが行われる筈です」
「もしかして、それは横山先生が?」
「私は自分の生徒が傷付けられたのが許せなかっただけです」
「でも…、わからない。あの頃皆先生の事うざがって嫌っていたのに何故そこまで…」
「私が好かれているとか嫌われているとかそんなの関係ないのです」
「でもあの事故から五年も経っていたのに」
彼女は驚いた表情で横山を見つめた。


96 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 10:43:34.48 ID:2ul5JyHX0
彼女の家を後にした高橋は木枯らしに舞う枯れ葉を見ながらあの頃の事を思い出していた。
「確か横山があの学園に来た日も風が強かったなぁ」
「そうですね」
と横山も思い起こしていた。

画面はオープニングシーンが映し出される。

春の嵐が吹きすさぶある日、学園に新任の教師が赴任してくる。
カメラがその教師の足元から上にパンして、やがて画面に教師の背中と校門が写る。
新任教師はふと校名が書かれた看板を見るが風で飛ばされて来た新聞がからみついて「馬路」と「加女学園」しか見えない、
カメラは更に上に上がり上空から学園全体を写し出す。
彼女が校内に入って行くと、看板に絡まっていた新聞は飛ばされて校名が露わになる“馬路目須加学園”とそこには書かれていた。

そして、タイトルバック「馬路須加学園?」が打ち砕かれて「馬路目須加学園」と表示されてエンディングロールとなる。


97 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 10:54:03.25 ID:2ul5JyHX0
先生はそこまで話し終わるとどうだった?と言いたげに僕を見ている。
「良いとは思います、一番最後に真の作品名が明かされるんですか?斬新です。
でも舞台がアメリカ海兵隊基地内とかアメリカ本土とか大掛かりになりそうですね、それに他のメンバーの出番がないじゃないですか」
そう言うと先生はにやりと笑い
「それがそうでもないんだ。じつは五話目のスタッフロールのバックにその回には出ていない筈の選抜メンバーとか
研究生のメンバーのメイキングの映像が挟み込まれるんだ。じつはそのメンバーはどこかのシーンでカメオ出演している、
それに出演者のセリフの中にさりげなくヒントが隠されている。視聴者はドラマを楽しむ以外にゲストを探す遊びも出来るんだ」
「でも、何で五話目からなんです?一話目からしないんですか」
「いや本当は一話目からしているんだよ、ただスタッフロール中にヒントを出さないだけ。
恐らくすぐに掲示板等で話題になるはず“一話目からカメオ出演はしているぞ”ってね。
“最初から録画している俺は勝ち組!”とか書き込みされて中にはYouTubeとかで挙がるかも知れないが画像が悪くて分かり辛いから
皆はBlue-rayの発売を心待ちにする」

これこそ秋元商法の真骨頂である。


98 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 11:05:04.42 ID:2ul5JyHX0
「それだけではない、“馬路須加学園”の初代ヒロインの前田敦子をリスペクトしてあらゆるところに前田に関する物が映り込むんだ。
例えば街並みの背景に写る電気店に並ぶテレビには前田のライブが流されていたり、楽器店には“GIVE ME FIVE!”で弾いていたギターがショーケースで展示されていたりとか
最終回ではアメリカチアリーディングの練習風景で一人だけ“フライングゲット”を踊っている。それが前田本人と言うサプライズ映像もある。
しかし、それはBlue-rayBOXの中で知らされる。おまけ映像では全ての回答編も収められている」
先生の目が少年のようにキラキラしている。
「なんか創作意欲湧いて来た。早速帰って書かなければ。戸賀崎、後はよろしく頼む」
と言うと急に立ち上がり、まるで“カメハメ波”を打つようなポーズをした。
「先生何をしてるんですか?」
「これか?これはぼくが気合いを入れるか  まえだ!」
「あつ、こ  れがその構えなんですか・・」

先生はこうしながらあらゆるものの中からヒントを得て様々な作品を生み出しているのだ。

そして会場は相変わらず賑やかだった。


99 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 11:15:13.58 ID:2ul5JyHX0
「右肩」


巨大化したAKBグループは今や大所帯となり、国内だけでも研究生を含め250人程が在籍している。
それだけの人数がしのぎを削っているとみんな仲好しこよしではないのは否めない。
逆にそんな状態でいたのならここまで大きくなっていなかっただろうとも思う。
上に上がるには誰かが下がらなければならない、そう総選挙のように数値に表せてくれたならある程度の納得もするが、
こちらからのメンバー選出となると彼女達の気持ちにも納得できない面が出てくる。
その気持ちの隙間に悔しさや悲しみやねたみが生まれてメンバー同士の関係にぎくしゃく感が生ずるのも事実。
しかしAKBグループが存続するには商業的に利益を求めなければならない、その為にある程度知名度のあるメンバーに混ぜて『推され』と言われるメンバーを出演させる。
それは野球で例えるのなら代打やリリーフ見たいなものだ、数少ないここ一発の所でそれなりの成果を残せなければチャンスは隣の人に移ってしまう。
プレッシャーはかなりあるがそれに打ち勝たなくてはならない。


100 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 11:25:13.19 ID:2ul5JyHX0
そこには所属事務所の力関係も働く場合もある、AKBが他のアイドルグループと比べて異彩を放っているのはこう言う所だ。
みんなが同じ芸能事務所ではないのだ、AKBでありながら事務所ごとに売り出し方針が違う。
バラエティーによく出ていたり、ドラマに出ていたりと同じ事務所のバーターで出演して認知度が上がる場合もある。
しかし、そんな事務所に見染められて雇ってもらうのはやはり自分の頑張りでしかない。
いつも自分の環境に嘆き誰かに不満の感情をぶつけている様じゃ上に上がれるはずもない。

でも言い争いが決して悪い事ばかりではない。時には感情をむき出しにすることも良いと思う。

それが建設的な事なら…。


101 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 11:35:42.03 ID:2ul5JyHX0
「それじゃ、高みなの思う様にやればいいじゃん!」
前田が吐き捨てるように言うと楽屋を出て行こうとする。
「待って!言いたい事があるなら、はっきり言いなよ。敦子はいつだってそうなんだよ、何も言わないだからこっちは分からないんだ」
と声を荒げて後を追いかける高橋。これは今では大きなコンサートの前の恒例となっている。
初めのうちは優子や才加や篠田が二人の間を取り持っていたがもはやそれももう無い。
どちらかと言うとその光景を見て固まっている後輩達に「あっ、あれ?心配ないから」とフォローの方に回っている。

AKBのまとめ役の高橋みなみ、AKBの絶対的エースそして顔とも言える前田敦子。
奇しくも同じ年齢で1期生、そして草創期のAKBをそれぞれの立場で牽引してきた二人。
気心も知れているし互いの苦労も十分理解している。
それなのに意見が衝突して声を荒げる、これは自分の立場を訴えているわけではないのだ。


102 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 12:01:46.27 ID:2ul5JyHX0
前田敦子。
彼女が昔『渚のCHERRY』でセンターとなり一人だけ特別扱いのように感じそれが嫌で録音ブースに籠り泣いたと言う事は
もう誰もが知っているエピソードで“自分だけが目立つ”“自分の所為で他の子達が泣いている”と言うのが理由と言う事も有名だ。
しかし本当は同じ立場で今までどんな辛いレッスンにも耐えて互いに慰め励まし合ってきたのにこれからは自分だけはそういう事が出来なくなると言うのが彼女の本音だったのだ。
当時まだ子供で大人達の戦略に躍らせれているに過ぎなかった彼女達、しかし総選挙と言う人気投票ではっきりと数値化され現実を突き付けられしだいとそれを受け入れて行った。
前田はセンターでいる事の意味を考えその重圧に負ける事無く頑張り今の地位を築き上げた。


高橋みなみ
言うまでもなくチームを超えてAKB内での絶対的リーダーの彼女。
チームごとにキャプテンはいるが代表となると1期生である高橋があらゆる面での対応者となる。それは見た目以上に大変な責務だ。
ある時こんな事があった、コンサートでのリハーサルであるメンバーがダラダラしてて舞台監督が怒った、それも本人にではなく高橋に対してだ。
問題のメンバーは高橋のチームではなかったが高橋は監督に謝罪し自分の指導不足を恥じた。
根底にはチーム別として考えるんじゃなくAKBとしてどう見られているかを意識しているようだ。
また彼女はメリハリがはっきりしている、やらなければいけないときは真剣にやりメンバーに対しても躊躇(ためら)いもなく怒号するが
それ以外は優しい姉として後輩に接しムードメーカーとして皆から慕われている。
そしてそんな人柄がらからか「高みなの様にはなれない」と言われるが「高みなにはついて行けない」と言うメンバーはいない。


103 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 12:12:19.45 ID:2ul5JyHX0
前田も高橋もお互いにそれぞれの変わりは出来ないと分かっている。
それと、コンサートを成功させる為に責任も感じている。
成功の為に裏からメンバーをまとめようと躍起になる高橋と成功の為に最高のパフォーマンスを極めようとする前田。
その重圧に潰されそうになる辛さと怖さ、それを素直にぶつけられるのはこの二人しかいないのだ。
もちろん他のメンバー達も二人に負けないくらいに責任感は持っている、
しかし前田や高橋は他のメンバーには気を使ってしまい言いたい事を飲み込んでしまう傾向がある。
互いが分かりすぎるほど分かっているから本音でぶつかって行けるのだと僕は思う。

それから二人は口を聞く事無くリハーサルへと向かう。
でも前田も高橋もプロだちゃんとけじめは出来ていて自分の役割はこなしている。
何時間もぶっ通しで行われるリハーサルはかなりハードだ、それもメンバー方から納得いくまで何回も行うからでもあった。
言い方を変えればそれだけ自主的責任感があると言う事だ。

食事休憩で帰って来てしばしの自由時間が出来る。
中にはDVDを見直し振付を確認する者や雑談をする者様々だが前田と高橋は大抵やる事が決まっている。
今もそうだ控室の奥にあるソファーに仲良く腰をおろし高橋の右側で前田が頭をくっ付けて二人で仮眠を取っている。
こうして手を握り合って眠っている二人を見るのももうあと僅かになってしまった。
僕はそっとその風景をカメラに収めた、それは決して明かされることのないフォルダーに収められる。
多分みんな同じ気持ちでシャッターを切ったんだと思う。

篠田がどこからかタオルケットを持ってきて彼女達にそっと掛けた。
そして二人を見つめるその目は姉がやんちゃな妹達を見つめるようであり、そして、寂しげでもあった。


105 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 12:44:16.16 ID:2ul5JyHX0
「シンクロときめき」


2009年8月23日のコンサートで組閣が発表された。
新チームのメンバーシャッフルが行われると同時にキャプテン制が導入され各チームのキャプテンが任命された。
チームA、K、Bのキャプテンに高橋、秋元そして柏木がそれぞれ選ばれる。
当初10月からのスタートと予定されていたが、実際新チームとして公演が始まったのは翌年の3月からだった。

その頃の柏木はどこか元気がなく溜息ばかりついていた。
その原因は誰もが分かっている、新チームのキャプテンに任命された事だ。
公演のリハーサルの合間の休憩中に舞台に腰掛けている柏木がそこにいた。
「さっきから溜息ばかりついてるぞ」
僕は柏木の隣に腰をおろし話を聞くことにした。
「あっ、戸賀崎さん。私溜息ばかりついてますか?」
「ああ、ついてる、ついてる。思いっ切りついてるぞ」
「どうした、いつものお前らしくないな。やっぱりキャプテンに任命された事か?」
そう言うと柏木は目を見開き
「私、無理です。キャプテンなんて、自信ありません!」
「まぁ確かに“適材適所”って言葉もあるけど、俺はお前がその言葉から外れているとは思わないけどなぁ」
「私のどこを見てそう思うのか理解に苦しみます」
「今のままなら、そうかも知れないけどな。
でも先生は会議の時に“柏木ならきっと成長して立派なキャプテンになれる”って太鼓判押してたんだぞ」
柏木はその言葉を聞くと急に肩を落として
「だって私の性格じゃ絶対無理ですよ」
「柏木、性格は変えられないと思ってるのか?」
「あたりまえじゃないですか、性格なんて生まれつきなもんだし」
「そうかな?じゃ麻友は今でも引き籠りの暗いままだったのかな?そうじゃないだろう、麻友はお前に出会った事によって変わったんだよ」
「私に出会って…?」
僕は二人がAKBに入って間もない頃の話を聞かせてやった。


106 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 12:49:18.57 ID:2ul5JyHX0
3期生がまだ舞台に上がる為のレッスンを受けている頃だった。
まだそんなに誰もが打ち解けてなく会話もどこか他人行儀で先輩達の前ではどこか委縮しているように見えた。
それでも何カ月かすると同期生の輪的なものも出来始めレッスンの厳しさの中でも少しずつでも笑顔が見えてきた。
振り付けのレパートリーも増えていき楽しむ事を覚え始めていたようだった。
ただその中でも渡辺麻友はちょっと違っていた、もちろん溶け込んではいない訳ではなかったがいつも少しうつむきがちで自分からは話し掛けてはいなかった。

「渡辺、楽しんでるかい?」
僕の問い掛けに麻友は恥ずかしそうに小さく頷いた。
「ならいいけど休憩時間にいつも一人でいるような気がしてさ、何かあるのかなって思って」
「大丈夫です。でも私みんなと話すの少し苦手だから、性格が元々暗いんです」
と麻友はぎこちない頬笑みを僕に見せた。

実は3期生がオーディションに合格して間もない頃、麻友の母親があいさつに来られて
麻友はどちらかかと言うと部屋に引き籠りでパソコンばかりいじっている子だったので、
こんな賑やかな世界に飛び込んで行った事が信じられませんと言い、
とにかく本人はそんな自分を変えたかったんでしょうねと話してくれていた。


107 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 12:56:56.60 ID:2ul5JyHX0
「渡辺は3期生の中で仲のいい子はいないのか?」
「そんなに仲のいい人はまだいません…」
とまたうつむく。
「じゃあさ、仲良くなりたいって子は?」
「それは…柏木さんです」
僕は、柏木ってどんな子だったかなって頭の中で思い起こしていた。
「確か鹿児島出身の子だったかな」
「はい」
「そうか、彼女はたしか『モーニング娘。』が好きだって言ってたかな。
渡辺は『モーニング娘。』とかは詳しい?」
「あまり知りません」
「そうか、何か話すきっかけはないかな…。そうだ!」
と僕はある妙案を思いついた。
「あのさ、渡辺の目から見て柏木のファッションセンスどう思う?」
「えっと、言いにくいんですけどあまりおしゃれとは…」
と申し訳なさそうに僕から目線を反らした。
「だよな、僕から見てもそう思うもん」
そう言って僕が笑うと麻友もつられて笑いながら「ひどい」と言った。
「いや多分その辺は本人も自覚してると思うよ。
そこでだ、一つ作戦があるんだ。名付けて“柏木フレンドシップ向上作戦”どうだ乗ってみるか?」
「何かダサい作戦名ですね。でもそれ乗って見たいです」
「そうこなくっちゃ!」
麻友は笑いながら、身を乗り出してきた。
「いいかこれは内緒のミッションだぞ」
なんか僕の方もワクワクしてくる。


109 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 13:03:26.53 ID:2ul5JyHX0
「先ず、柏木の私服の時にさりげなく“その服の色違い私も持ってます”って声を掛けるんだ」
「えっ?私、柏木さんの着ているような服なんて持ってませんよ」
と表情を曇らせる
「大丈夫だよそこは嘘でいいんだよ。でさ、そう言われた柏木はどう思うか?
ファッションセンスがないのに自覚しているから“おそろいの服を持っている”と言われたら
何か味方が出来たような親近感が湧いてくるんだよ。
その言葉で柏木のハートを鷲掴み、そうすると二人の距離はぐぐっと縮まるってわけだ。
なぁ良い作戦だろう?」
麻友はそうかな?って首をひねっている。
「それだけで、終わりじゃない。最終的にはその胸に飛び込んで抱きつく事が出来たらそこに絆が生まれる」
「そこまではさすがに無理っぽいです」
「それはすぐにではなくて良いよ、お互いに仲良くなってからだ。
渡辺、人は嬉しい時や悲しい時、寂しい時に抱擁するだろうなんでだと思う?」
「それはその人を包んであげたいからじゃないですか?」
「それもあるだろう、でも僕はこうも思うんだ。
心臓の鼓動を相手と確認し合って“あなたと気持ちは一緒だよ”、もしくは“一緒にしたいんだよ”って意味じゃないのかなって。
要は相手と鼓動を通して気持ちをシンクロしたいって事」
「うん、そうかも知れない」
と麻友は今日一番の笑顔を見せた。
「戸賀崎さんありがとうございます。今度そのミッション試してみます」
「大丈夫、渡辺なら柏木位すぐ落とせるよ」
と言うと本人が聞いたら怒りますよと言いながらも麻友は更にキラキラと笑った。

それから“柏木フレンドシップ向上作戦”が功を奏してかどうかは分からないが、
二人の距離がぐっと縮まっているのを感じる。
今ではチームBの母娘としてメンバーやファンは認知している。
さっきも楽屋でふざけながら「シンクロ!」「ときめき!」と声を掛け合って抱き合っていた。


118 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 16:19:33.37 ID:aUzObbZd0
「bird」編うるっときてしまった・・

119 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 16:45:58.78 ID:2ul5JyHX0
>>118

ありがとうございます。
僕も好きな話なんです。
無言のVサインがお気に入りです。

120 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 16:49:18.48 ID:2ul5JyHX0
「てもでもの涙」


麻友の話を聞いていた柏木は、考え深そうな表情で
「まゆがそんな風に私の事を…」とつぶやいた。
「それにしても」と唇を尖らせて「“柏木フレンドシップ向上作戦”って何なんですか、本当にダサいネーミング」
「誰かのファッションセンスのように?」
僕は意地悪く笑いながら返す。
「ひどい!」
柏木も怒った顔になるが、それも堪え切れず笑い出す。
「でも確かにあれからまゆが可愛く思えていつも一緒にいたような気がします」
「麻友の性格が変わったんだからお前もきっと変えられるんじゃないのかな」
柏木はまた視線を床の落とすと黙り込んでしまった。
「もしかして他のチームと比べられる事を怖がってない?」
彼女はワンテンポずれてコクンと頷いた。
「だって、高みなさんや秋元さんの様な皆から頼られるキャプテンには
どんなに頑張っても例えチーム内で年上でも私には出来そうにありません」
「チームAの個々のパフォーマンスが高くそれを見事に束ねている高橋の凄さ、
チームBの皆で意見を出し合いステージを団結力で築き上げた才加の力量。
あの二人は僕達から見ても頼りがいがあるキャプテンだ。
で、柏木はあの二人のようにならなければと思っているんだろう?」
今にも泣きそうな表情になり唇を噛む柏木を見ながら僕は話を続ける。


121 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 16:54:28.90 ID:2ul5JyHX0
「僕は研究生達にいつも言っているんだけど、誰かのパフォーマンスを参考にするのはいいけど真似をしているだけじゃダメだ、
どこかで自分の色を出さなくちゃいけないって。だからさ、柏木は柏木らしいキャプテンになればいいんじゃないかな」
「私らしい?」
「そう、柏木らしいキャプテンに。お前がメンバーに向かって“お前らいいかげんにしろよ!”って男言葉で怒るところ想像できないしなる必要もないしね」
彼女はあわててそんなの無理と顔の前で手を振り首を横に振る。
「僕はシンディーがそうだった様に柏木もチームBのお母さんになればいいんじゃないかと思うんだけどどうかな?」
「お母さん?」
「うん、いつも子供たちを優しく見守り時には叱るお母さんのようなキャプテン。例えるなら高橋や才加がお父さんなら柏木はお母さんになるって言うのも悪くないぞ」
「それなら出来そうだけど、そんなのでちゃんとまとめて行けるか不安です」
「要はちゃんと注意する事が出来るかってこと?」
「そうです、言い方は悪いかも知れませんが私だとちゃんと怒れないからなめらるんじゃないかと思うんですけど…」
「それは大丈夫だと思う、みんなそれほど擦れているとは思えない。
ただ間違えないでほしんだけど“怒る”と“叱る”とは違うんだって事。
“怒る”の根底にはまさしく怒りがあるけど“叱る”の根底にあるのは愛情なんだよ」
柏木は薄暗い客席を見つめながら暫く考え込んだ後、答えを出した。
「私、チームBのお母さんになります。15人の子供達を優しく包み込みます」
「がんばれ。そして一番大切なことはお前自身がチームBを楽しむ事だから」
「わかりました」
ようやく彼女は笑った。
「想像できるな、開演間近の楽屋のチームBが。
騒がしいメンバーに向かってパンパンと手を叩いて“は~い、みんな時計を見て!そろそろ円陣組むよ”と言っても誰も集まらない。
結局一人づつ声を掛けながら集合を促す柏木キャプテンの姿が」
「わたしそこまで酷くはないと…」
「言い切れるか?」
「まぁ…」と言葉を詰まらせ「と、とにかく頑張ります」
と細い腕でガッツポーズをした。


122 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 17:02:44.17 ID:2ul5JyHX0
実際、新チームでの活動が始まるとチームA・Kと比べてBの柏木のキャプテンシーの脆弱(ぜいじゃく)さがネット内でも取りざたされた。
しかし薩摩女の特徴か柏木は辛抱強くそれに耐えながら彼女らしくチームをまとめて行った。
尤もその意見に敏感に反応したのはメンバーの方だったのかもしれない。
自分達のキャプテンをバカにされるのに反発した彼女達は一丸となって柏木を盛り上げてチームは見事にまとめ上げられていく事となる。
でもそこには柏木のみんなを想う優しさと頑張りがあったからで、結局のところ彼女の人望のなせる業だった。
秋元先生がそこまで見越していたのかどうかは分からないが柏木キャプテンの任命はどうやら間違いではなかったようだ。

ある時、浦野が公演の際に僕の所に来て
「ゆきりんに私の様なお母さんになればって言ったんだって」
と笑いながら聞いてきた。
「あぁ言ったよ、よく知ってるね」
「だってあのめんどくさがり屋のゆきりんがわざわざ私に電話を掛けてきて“私シンディーみたいなお母さんになります”って。
私、言ってやったの“ゆきりんはお母さんよりママの方が似合う”って」
「ママか、確かにそっちの方がぴったしかもしれないなぁ」
浦野はひとしきり笑った後真剣な表情になった。
「で、どうなの、新チームBキャプテンのゆきりんは?」
「大丈夫、色々あるけれど彼女は頑張っているよ。浦野がちゃんと基礎を作ってくれたからね」
「ネットでは叩かれているみたいだから心配になっちゃって、ねぇゆきりんに伝えて私でよかったら何かあれば例え夜中でも相談しなさいって」
「やっぱり、浦野はお母さんだな。いや今はおばあちゃんかな?」
そう言うと浦野は僕の肩をパーンと叩くと
「ひどーい、そんなに年取ってないから!せめてグランドマザーって言って」
「違いがよく分からないんだが?」
「イメージよイメージ」
と相変わらずの浦野ではあったが、彼女の持っていた優しさはちゃんと柏木を通じてチームBに受け継がれている。


123 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 17:27:53.15 ID:2ul5JyHX0
これで、書き溜めていた短編は終わりです。

以前の小説は「起承転結」の結が弱いとアドバイスを頂きました。
でもなかなか思うようには行かず「とりあえず、一場面のショートストーリーを
書いて見よう」と思い立ちネットで知ったメンバーの出来事を基に仮想小説に仕上げました。

頭を痛めたのは章題でした。そのストーリーの主人公が歌っている曲で尚且つ
ストーリーに沿っていると言うのがネックでした。中にはちょっと強引な所も有ったかも知れませんが
その辺は御愛嬌と言う所で御容赦願います。

その傍らで「長編物」にもチャレンジしました。これは「起承転結」を意識したつもりで書き上げました。
今回の様なハートフルな内容で無く「サスペンス物」です。
ミステリーと違って犯人は誰だ!ではないのですがスリルがあり僕自身楽しめて書けました。

色々スムーズに行かない所もありましたがお付き合い下さいましてありがとうございました。
次回は近日中に新しスレとして立ち上げさせてもらいます。その時も感想やアドアイス等の御意見をお願いします。

おそらく後5回書き込めると思いますので待機します。


124 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 17:46:17.89 ID:mZlJTe4W0
面白かった!

125 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 18:25:47.15 ID:2ul5JyHX0
>>124

楽しんでくれて良かったです。

ありがとうございました。

126 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/17(日) 18:58:56.08 ID:I7fwtqh90
栄でも是非とリクエストしてみる

元スレ:【仮説小説】 戸賀崎智信奮戦記

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